ライフ・フロム・ゼロ

食べ終わり、土鍋とお椀を洗い、
缶のビニール袋の口を縛ったところで、
携帯が鳴っていることに気付いた。

一瞬緊張が走る。
週末だし、博之さんかもしれない。

携帯を手に取り、
サブディスプレイを確認すると、
そこには「実家」の文字があった。

ため息をついて、電話に出る。


「…もしもし?」

「もしもし」

「母さん?」

「はい」

「どうかしたの?」

「そういうわけじゃないけど…」


母は、向こうからかけてくるのに、
沈黙の時間を作ることがある。

私はそれがとても苦手だった。

取り繕うように、言う。
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