ライフ・フロム・ゼロ
「仕方ないよ。がんばろう」
「父さんが、あんなことしなければ」
「今言っても仕方ないよ」
「でも、そうでしょう。
だいたいあの人は反省してないのよ。
私たちに済まないなんて思ってないんだから」
「うん、うん」
あとはいつもとおなじだった。
母が言う、現状への不満と、
父の悪口と、叶わない理想を、
相槌を打ちながらただ、聞く。
具体的なアドバイスや下手な励ましは
いらないのだ。ただ、聴けばいい。
高校を卒業してから
一度も会っていない父と母は、
今どんな姿をしているのだろう。
電話口の母の声はいつも疲れていて、
少し老けたような気もした。
あの、小さな一軒家は変わらぬままなのだろうか。
口数の多くない父と、
欝気質の母は毎日、
あの家でどんな会話をしているのだろうか。
想像がつきそうで、つかない。
ただ、母にとっては居心地のよい環境ではないのだろうと思う。