君の肌を壊す夜


「…兄さんに会いに行ってたの?」


穏やかな声に、あたしは涙で声なんか出なかった。


すると、この数歩の距離を駆けた優貴が力一杯、あたしを抱き寄せて


「兄さんじゃ貴女を幸せにできないって…言っただろ。」


耳元で囁く声に、あたしは何度も頷いた。


そして冷たくなった彼の背中に腕を回してぎゅっと抱きしめた。



心に空いた穴を、優貴の温度で温めて欲しくて


彼の服からほんの少し香る香水の香りを胸にいっぱい吸い込んだ。


「もっと強く、壊れるくらい抱きしめて…」



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