君の肌を壊す夜


「…なんで優貴はあたしを愛してるなんて言うの?」



答える変わりに、優貴はそっとあたしに唇を重ねてあたしを強く抱きしめた。



耳をくすぐる吐息に混ざって彼の震える声が聞こえた。


「本当に…覚えてないの?

俺達、結婚の約束までしてたのに…」


消え入りそうな声が泣いていた。

あたしは自分の耳を疑いながら

それでも

あたしの肩に降り注ぐ涙に


呼吸さえできずにいた。

静かな部屋の中で

二人を包む時間だけが止まってしまった気がした。



< 90 / 250 >

この作品をシェア

pagetop