桜時雨と貴方と恋
藍はただ、人目に触れないようひっそりと佇んでいるこの桜の木に、まるで吸い込まれるかのように見入っていた。
そっと幹に手を伸ばす。
堅く、ざらざらとしたその表面は冷たい
…まるで桜が藍の指先の温度を奪い取るかのよう
「…本当に綺麗…」
その言葉しか出て来なかった。
「藍っ!!」
――その時、突然静寂を打ち破る声が響いた
「あ…海斗君」
藍は声のした方に目を向ける。
息を切らしながら叫んだのは、藍と修学旅行中同じグループになった相沢海斗(あいざわ かいと)だった。