ねぇ、そばにいて。
塵ひとつ見当たらない綺麗な店内。
もうすぐ朝方だというのに、まだまだ見渡すかぎりお客でいっぱいだ。
店内を見渡しながら、私は視線だけで1人の男を探す。
「漣(レン)の奴、まだ北条(ホウジョウ)様の接客中で…」
そんな私に気付いた目の前の王子様なホストは、申し訳なさそうにそう言った。
北条といえば、この辺りのホストクラブなどで羽振りのいい"常連客"。
いま最も有名な不動産会社の娘だかなんだか。
「それが終わったら今日はもう上がれるはずですから。よかったらバックルームで待ってやってください」
"他の奴らも葉月さんを待ってますよ"
なんて最後に付け足すのも忘れない。
「さすがホストね ありがとう」
しっかり彼に微笑みかけてから
言われた通り、店の奥のバックルームへと向かった。
当たり前のようにバックルームへ通してもらえるなんて私は随分な信頼を得たんだな、と。
嬉しさと少しの息苦しさを感じた。