ねぇ、そばにいて。
さて、私が会いに来た男は大御所の接客中なわけだ。
いつもなら接客中でも目線くらいは合わせて、会いに来たことを知らせるんだけれど。
「"北条さん"ね……」
客がそんな相手となれば、変に私とのやり取りを気付かれても困るだろうし。
そう考えた私は、テーブルの方を見ないように
なおかつ テーブルから見えないようにバックルームに向かい隅を歩いた。
「いらっしゃいませ葉月さま。
相変わらずお綺麗ですね」
「葉月さん お久しぶりです!俺、速攻で終わらせるんでバックルームにいてくださいね!」
「葉月さん、お待ちしておりました。
ごゆっくりどうぞ」
バックルームへ行くまでの間にも、私にはもったいないくらいの素敵な笑顔が何度も向けられる。
お金も払わない私を惜しみない笑顔で迎えてくれるのだ。
そんな皆に申し訳ない気持ちになりながら
「こんばんは 少しお邪魔するわね」
私も精一杯の笑顔を返した。