ねぇ、そばにいて。




「~♪~♪」

静かに寝室を抜け出した私は
リビングで鼻歌混じりに2人分のコーヒーを淹れる。


右手に持ったマグカップには砂糖を2つ。
左手のマグカップはそのままで。



普段あんなに大人びている漣も、
それなりに少年ぽいところがあるようで。
コーヒーのような苦いものは不得意らしい。

…それならミルクにすればいいのに。



『こんなの俺だってすぐに飲めるようになりますから』

なぜか少年はコーヒーにこだわった。



『葉月さんと同じものにします』





「ふふ、…馬鹿ね」


コーヒーを一口だけ口に入れて、
そろそろ起きるだろうと考えていた。

その時、





――バンッッ

「葉月さん!」




勢いよく現れた漣はひどく焦った様子。



「………はい。 ?」


両手にコーヒーを持つ私を見て
漣は安心したような表情を見せる。

「…?」



漣はそのまま私に近づくと
私の腰に腕を回し、抱きしめた。



「…ど、したの?」

そう尋ねながら、
零れそうなコーヒーにも意識が集中する。






「…もう帰ったのかと思いました」

「………」

…どうして?



「私が黙って帰ったことなんて
一度もないじゃない」

私の肩に顔を埋めるアナタは
いったい何を不安がってるの?



「昨日…面倒臭い事ばっか言ったんで
呆れて帰ったかと。」


不安げな声で弱気な漣は
まるで子供のようで。

私はバレない程度に微笑む。




< 38 / 43 >

この作品をシェア

pagetop