ねぇ、そばにいて。
『あの日葉月さんは、悲しくて泣いていたんですか?』
いつか、漣は不意にそう尋ねてきた。
『………』
すぐに答えられなかったのは
理由なんて忘れてしまったから。
ただ、漣が私を見つけてくれたあの夜。
あまりに黒く冷たい空を見て、
消えてしまいたいと強く思ったんだ。
『"そばにいて"って言いたかったの』
元さんの背中にそう伝えたくて。
『…でもそれって
"好き"よりも甘くて、
"愛してる"より重く響くと思わない?』
言えばきっと、私には後悔しか残らない。
だから私は
『おやすみなさい』と伝えた。
『………』
漣は真撃に私を見つめていた。
それを見て私は悪戯に微笑む。
『でも、無意識に口に出していたみたいね。
息をのむほど素敵なホストさんが
私の傍にいてくれると言い出したの』
『…それは素敵な展開ですね』
そこでやっと、漣はいつものように微笑んだ。
『でしょう?
"そばにいて"と言いたくて言えなかった女に"そばにいてあげましょうか"なんて。
そんなの、反則なくらい理想的だった』
『そのホストはきっと、葉月さんほど頭が回らなかったんです』
『え?』
『"重い"とか、それが"言ってはいけない"言葉だとか。』