ねぇ、そばにいて。


「じゃあ…、おやすみ」



細身のグレーのスーツをしっかりと着こなして。

すっかりここへ来たときと同じ格好に戻り、ベッドから立ち上がった元さん。



まだ朝は来ない。
日付も変わらず今日のまま。

そう。"おやすみ"という言葉が
間違いでないくらいの時間だ。



「…帰り、気をつけてください」


敬語なのは甘い時間が終わった証。

元さんはそんなことしなくていいと言うけど、これは私なりの小さなけじめのつもりだった。


「また連絡するから」

そう言われて顔を上げれば
元さんは眉を下げて笑っていた。



"そんな顔しないでくれ"
とでも言いたいのね。

自分でも情けない顔をしていたんだろうと想像できる。


「はい。…待ってます」


元さんは私の返事を聞くと
嬉しそうに笑う。


ベッドに座ったままの私の頭に
そっとキスを残して帰っていった。


「……おやすみなさい」



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