時計台の前で
ーーーーまた話し掛ける勇気のない弱虫の由香里。あの日からもう2ヶ月が過ぎた。降り積もっていた雪は姿を消し、暖かさが戻ってきた。
いつものように目的地へ急ぐ、すると時計台の前にはいつものように彼が彼女を待っている。
彼を見ないように心がけながら前を通過する。不意に由香里の足が止まった。
「どうして? どうしてあなたは……泣いているの?」
この世の終わりみたいな顔をして泣いている、彼に由香里はただ背中を擦ることしかできなかった。
「フラれたんだ……はあ、俺めっちゃだせー」
瞳に涙をためながら自傷するように笑う彼の横顔があまりにも切なくて私まで悲しい気持ちになった。彼は由香里にそっともたれてきた。
「甘えないでよ」
もたれてきた身体を突き放した。彼はびっくりした顔でこちらをみた。
「なに? あなたを好きだった私なら慰めてくれるとでも思ったの? 馬鹿にしないでよね。あんたみたいなヘタレこっちから願い下げよ」
それだけを言い放つと由香里は歩きだした。それからはもう彼が時計台にいることはなかった。
数週間後、もとから好きではなかった梶ともそんなに続きはせず、すぐに別れた。フリーになってなんとなく肩の荷がおりた由香里は彼のことは忘れかけていた。