時計台の前で
そして今日も由香里は目的地へと足を進めていた。時計台の前、懐かしい姿が見えた。
「この間はすまなかった」
由香里の前で深々と頭を下げる彼。
「別にいいわよ。それより、もう吹っ切れたの?」
「彼女のことは好きだ。だからこれからもしつこくアタックし続けるよ。そう思えたのは君のおかげだ。ありがとう」
ちらりと八重歯を見せ笑う彼。ああ、この間より数段格好よくなった。由香里も笑みを返した。
「あのさ、今さらだけどよかったら君の名前教えてよ」
結構話していたにも関わらず由香里は彼、彼は君と互いの名前さえも知らなかった。
「嫌よ」
「え……」
笑っていた顔がみるみるうちに悲しげな表情となった。
「2人ともが幸せになったとき、またこの時計台の前で会いましょう。名前はその時よ」
子犬のようにはしゃぎ彼はいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「僕のほうが先に幸せになってやる!」
そんなことをいいかけて行った。
由香里はくすりと笑い走りながら振り向いている彼に手を振った。
「またね」