私は一生、蛍を見ない
沈みゆく夕日の最後の光が差し込む弓道場で、胡座をかいた雷がもりもりと菓子を貪り食う。
その様子を横目に、私も隣でアイスを食う。
取り留めのない会話をしながら食い進め、やがて夕日が完全に落ち、辺りが真っ暗になった頃、雷も私もお菓子を食い終わった。
「な、帰りさ、どっか寄り道してこーぜ!」
「?…いーけど…どこにだ?」
「ん〜?どこでもいーぜ?どっか寄りたいとこある?」
「…お前から言っといて…単に寄り道がしたいだけで、特に行きたいとこ、ないのかよ…」
「ん?お前と寄り道できりゃ、どこでもいーからな」
「………ハ……?」
私と寄り道できりゃ、どこでもいい?どういうことだ?
「…帰りたく…ないんだろ?」
「!」
雷の言葉に私は固まった。
「…私が…?帰りたくない…?なんで…なんで雷がそんなこと…!」
「見てるから」
「…!?」
予想だにしなかった雷の答えに私は目を見開いた。
「見てりゃ、わかる」
「…お前はいつから私の観察者になったんだよ」
なんだかバツが悪くて、雷と目を合わせられない。
「…入学してすぐの合宿研修ん時」
「!?」
「レクリエーション時に初めて美紅を見た。美紅の存在を知った。…それからずっと俺は美紅を見てた」
「………何で……?」
「…きっと俺達はすごく似ているって…そう感じたから」
雷の答えに私は衝撃を受けた。あの時、私も初めて雷を見て雷の存在をしり、そして私も雷と同じことを感じた。
私達はきっと、酷くよく似ている、と。
「あれからずっと美紅を見てたからな。美紅が家に帰りたくないと思ってることぐらい、お見通しだぜ」
「…そーかよ…」
私は観念した。
「ああそうだよ。私は家に帰りたくないんだよ」
誰にも気付かれていないと思ってた。私がこんなこと思ってるなんて。
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