その冷たい手、温めてあげる。


「なんでしょう?」


「…手、繋いでもいいかな?」



思いがけない言葉に見上げると、先輩は前方を見たまま照れた様子で指で鼻の頭を掻いていた。


自然と胸が高鳴った。



「い、いいですよ…」



そう言い、あたしは手を少しだけ前に出す。


“手を繋ぐ”それは付き合いだして初めて、恋人らしい行為だった。


夢にまでも見た、“温めてもらう”という体験…


先輩は遠慮がちにあたしの手に触れ、そしてそっと握った。



温め……


……


……ん?


あれ…?



握られた手に違和感を感じ手元を見ると、素手の先輩に対し、厚手の手袋をしたあたしの手。


…あたしバカじゃん。


手を繋いでも手袋してたら相手の体温感じられないし。


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