その冷たい手、温めてあげる。


「未菜さん、小腹空いてない?」


「小腹ですか? 空いてます!」



変な感じなんて気のせいと振り払うように元気に答える。



「妹が駅前に新しくパフェ店が出来たって言ってて。良かったら行ってみる?」


「知ってます、そこ。あたしも実は行ってみたいって思ってたんです。…あ、でも先輩甘いものとか平気なんですか?」


「自分こう見えて甘党でね。特にパフェは大好物なんだ。後輩によくギャップがありすぎるって驚かれてしまうけど」


「同感です。先輩がパフェ食べてる姿想像つかないです」



頷き後輩さんたちに共感したあたしに熊田先輩は豪快に笑った。



「これから見られるのは貴重な光景ですのでどうぞお楽しみに」



なんておどけて言う先輩に今度はあたしがクスクスと笑ってしまった。



大丈夫だ。体が訴えてた変な感じはもうなくなってる。


跡形もなくなってしまったそれに気のせいだったのかもとさえ思えてくる。


うん。本当に気のせいだったのかもしれない。


あたしは自分にそう言い聞かせ大きな熊田先輩の手を握り返した。





その日から冬馬があたしの部屋に顔を出すことはなくなった。






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