わかってた。



「あ゙ーも゙ー俺トイレ行ってくる!!」


そう言ってその場を抜け出した。








…が、

―――ドンッ

少し歩いたところで人とぶつかった。


「あ、わりぃ…ってなんだ、お前かよ。」


相手は伊川美海(ミカ)、女の顔をした男だった。


「何それ!うちだって立派な女なんだからね!?」


「…お前は男だろ」

「はぁー?」


ボソッっと言ったつもりだったけど、どうやら聞こえたらしい。


地獄耳なのか、と思って実験のつもりで、さっきよりも小さく「腐ったミカン。」と言ってみた。


「なんだって?もう1回言ってみようか、柳下くん。」


そういうと美海は俺のワイシャツを掴んだ。


「なんでもねーって。」

「ちゃんと聞こえたんだけどなー?“腐ったミカン”ってね。」


…やっぱりコイツは地獄耳らしい。


「…え、腐ったミカン!?なんで腐ったミカン、なの?」



………………。


美海の隣にいた人が美海じゃなくて俺に質問してきた。

よっぽど疑問だったらしい。


「いや、“ミカ”で“ン”を付けると“ミカン”だから…。」
(全国の“ミカ”さんごめんなさい。)


俺は戸惑いながらも必死に言葉を返した。


「…あははっ!それじゃあ美海にピッタリだね」


…は?



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