新撰組のヒミツ 壱
最期の力を振り絞り、こちらを向いた先生の口元がゆっくりと動く。
『に』
『げ』
『ろ』と。
当時の光は、恐ろしさの余り、師を刺した浪士風の男の顔を見ることができなかった。
その上、地面に根が生えたように、震える足を動かすことができなかったのだ。
殺サレル。
殺サレル。
私は殺される……!
恐怖のあまり、光はただ目を瞑って死を待つより外なかった。
あんなに稽古をした乱走刀華二刀流で、相手を倒そうという考えは浮かばない。
月光が、先生の血で濡れる刀を照らす。
やがて、男は光を手に掛ける事はなく、静かな足音を立ててその場から立ち去った。