新撰組のヒミツ 壱
光は、ここにはいない彼の名前をソッと呟くと、自らの余りにも女らしい声に動揺した。


(……私は……男だ。気色悪い声を出すな……)


心臓の痛みが先程より強くなる。


何を期待していたのだろう。私はここまで走ってきて、いったい何がしたかったんだろう。


よくわからない胸の痛みと、ぐちゃぐちゃな思考。


ただ分かるのは、彼が居ない事実。


「……井岡光……なんて無様なんだ」


その自嘲の呟きは、誰の耳にも届くことはなく、夜の闇に溶けて消えた。



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