新撰組のヒミツ 壱
(それで居なかったのか……)


納得はしたが、一応光は仕事仲間で、同室なのである。何も言ってくれない山崎に対して苛立ちが湧いた。


山南がこうも簡単に話したことなら、光に話してくれてもいい事のはずなのだが。


(……そんなに疑っているのか……私は烝を兄のようだと思っているのに)


光の不安げな状態に気付いているのか、いないのか。山南はさらに言葉を続けた。


「確かに……あの方達は資金の工面をして下さっています。ですが……やり方がまずいのも事実です」


山南は力無い笑みを零す。


「光さん、覚えておいて下さい。人にはそれぞれの道があり、絶対に曲げられない強い信義や信念があるということを――」


その言葉に、何らかの意味が込められているのだろうか。しかしながら、二十も人生を歩んではいない光には、それを読みとることは出来なかった。


とはいうものの、光には山南の真剣な言葉に逆らう理由はなく、素直に「はい」 と頷いた。


風にさらされ、僅かに温くなった渋いお茶を口に運ぼうとしていた時だ。


「井岡さーん!」という、間延びをする聞き慣れた声が聞こえてきた。
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