新撰組のヒミツ 壱
「素晴らしい着流しですね」


その着流しをまじまじと見つめた光が、何気なしにそう女将に言うと、彼女は顔を綻ばせ、とても嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。他に欲しいものが御座いますか?」


「いえ、ありがとうございます」


もう十分だと思った光は、首を振って微笑む。女将と光はお互いに笑い合うと、彼女は二着を手早く風呂敷に包み込み、光へと手渡した。


「こればかりで心苦しいですが……」と、女将は少し顔を歪めてそう言う。だが、光は十分だった。新品の着物を買えるのは、一部の富裕層だけなのだから。


上等な服を無料で手に入れてしまった光は、むしろ、申し訳ないような気持ちになっていたのだった。


「いいえ、十分ですよ」


「またいらして下さいね、井岡様!」


自分の名前を呼ぶ声に振り返った光は、後ろで名残惜しそうな表情をしていた初に、優しく笑って頷いた。


再び正面を向いた光は、袴や反物に見入っている沖田と藤堂を「行きましょう」と、促した。そのため、光の笑顔を見た初が赤面している様子に気付くことは無かった。


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