新撰組のヒミツ 壱
「匂い袋以外やったら……買ったるで?」


監察が特徴のある匂い袋を持つのはまずい。いつ、どんなことが原因で潜入や変装が露見するか分からないからだ。


「いや……別に。あんな物……」


何気ない風に視線を逸らす光。それは大概の人間は気付けない変化だろうが、確かに光は慌てふためいていた。


「そないな物欲しそうな顔で言われても」


我慢しようとしても、珍しくもいつもとは少しだけ違う光の様子に、自然と零れる笑みを抑えることが出来ない。


彼女はちらちらと街を見渡す。もしかしたら、彼女自身も無意識なのではないか、と思うほど、本当にさり気ない様子だ。


「…………」


「俺の前まで男で居らんでもええやろ。身に着けられんくても、好きなん持っとれば……」


次から次へと言葉が口をついて出る。基本的に無口である筈の山崎は、光を前にすると自然と饒舌になってしまう。


(ほんま青臭い餓鬼やないか)


少し顔を赤らめ、山崎と店を見ている光は、着流しを着ていなければ、ただの女子にしか見えなかっただろう。


(俺には女子にしか見えんのやけど……)


――また、胸の奥で軋む音がした。


不覚にも、そんな彼女が可愛いと思ってしまう自分はどこか可笑しいのだろうか。思わず自分の胸に手を当てて深呼吸した。



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