新撰組のヒミツ 壱
本心
――3――
広間に夕餉を取りに行くが、殆どの隊士はもう部屋に帰った後だった。僅かに香る食べ物の残滓がある。
そこで食べ物を求めて勝手場へ行くと、中年の女中が皿を棚に直している様子が見てとれた。
話を聞くと、夕餉はちゃんと残されていたようで、勝手場の段に座って冷めた夕餉を食べ始める。
汁は女中が温め直してくれたものの、他は冷めている。こんな熱帯夜には、冷やご飯がちょうどいい……、と言い聞かせて気にしなかった。
「今日も美味しいご飯をありがとうございました」
女中にもちゃんと頭を下げて礼を言うと、彼女はは「頭をお上げください」と少し照れたように言う。
彼女にとっては、飯を作るのが仕事。しかし、ちゃんと礼を言われるのは嬉しいものである。
壬生浪士組にいる隊士は、自分が侍であるという矜持(プライド)を持っているため、女には、なかなか礼を言ったり、頭を下げたりしない。
男尊女卑。身分制度。こういう場面でも、江戸と平成の時代の違いを感じる。
侍や武士は中々頭を下げたりしないが、未来では男でも女でも頭を下げることは、当たり前だったのだから。
(……私は未来に帰りたいのか?)
部屋に戻る途中で考えている光。
(いや……帰りたいわけがない)