新撰組のヒミツ 壱
「……近藤さん。その“士道に背くまじき事”とは、具体的にどう言ったものなのでしょうか」


質問したのは、永倉であった。隊士も疑問に思っていたのだろう。よく注意をして、近藤の言動に耳を傾ける。


しかし、答えたのは土方だった。


「武士にそぐわない行動を取った時だ。例えを挙げるなら、後ろ傷。これは敵前逃亡と見做し、切腹に処す」


――まるで鬼そのものだな。
聞いていた光は土方を見て薄く笑う。


(撤退と逃亡の境界線が曖昧だな……。それは局長、副長の判断に委ねられる……、ということか……)


しかし、反対の声はない。曲がりなりにも隊士には、武士としての矜持があるのだから。


(………………あの子)


光はある隊士に目をやり、にやりと唇を歪ませた。その様子に隣にいた山崎が気づいた。


向けられた山崎の視線は『どないした』とでも言うようなものである。光は一瞬だけ視線をその隊士にやると、口角を上げた。


それに釣られた山崎も、その隊士に目をやる。未だに笑う光は、少し背伸びをして、山崎の耳元で囁いた。


「あんなに怯えるなんて……。
“隊士”のくせに怪しいなぁ、彼。



――楠小十郎君」


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