新撰組のヒミツ 壱
背後で、土方が半ば呆然として呟く声が聞こえた気がしたが、光は敢えて聞こえなかったふりをした。


確かに、普通なら四年位で武術をここまで習得することは出来ないだろう。しかし、今の光はあの師あればこそ、である。


そして、自立してからの二年間が――、


(何か……、
…………嫌なこと思い出したな……)


そこまでの考えを首を振って忘れると、光はそのまま稽古指導に戻っていった。


「安藤、意識を足元にも――。
力を入れて足払いを掛けられるな」


「……はい!」


目の前にいる隊士は、安藤早太郎という二十歳を少し過ぎた青年である。彼は光よりも年上なのだが、人懐っこい性格は、まるで弟のようだった。


剣道や柔術など、彼は平隊士にしては中々筋が良い。実は、光が密かに期待を寄せている内の一人である。


「皆、少し休憩しようか」


そうこうしている内に、井上が顔を汗で濡らしながらそう言った。確かに周りを見れば、息が荒い者が多い。


――動きに無駄が多いのも確かだが……こんなに暑い道場で稽古をしたら、熱中症にかかるな……。


「皆さん、水を飲んで休んで下さい。休憩を取らねば、稽古にも身が入りませんから」

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