新撰組のヒミツ 壱
二人の間で交わされる会話に、光は一人ついていけずただ黙っていた。どうやら、何かの任務らしいが、光には言われた覚えはない。


「……決行は九月十八日に決まった。お前たちは、間者を“下手人”として始末する手筈を整えてくれ。


何人か副長助勤を動かして構わない」


密やかに囁く土方に、光は二人が何を話しているのかについて思い当たった。


九月十八日。その日は、近藤派による芹沢派の暗殺が執り行われる日である。


真剣な表情になった光は、頭の中で遠い記憶を辿りながら、こっそりと歴史の流れを再確認していた。


「今のところ、間者はどうなんだ」


「楠小十郎に間違いは無いかと。ただ……単独で諜報をする筈がありません……。最低でも後二、三人はいるでしょう」


「そうだな。監察で調査してくれ」


的確な命令を下す土方に、山崎と光は頷く。


自然な会話を交わすように見える三人が、実は想像だにしない未来を語っていることは、誰も知らない。


それから、三人は周りに誰もいないことを確認しながら“下手人”の始末について話を纏め上げていった。


その台本はこうである。


芹沢派暗殺から一週間は日を置く。その間、近藤派は芹沢の仇を取るため、下手人を必死に探すのだ。


そして、長州の間者がいることを突き止めたならば、組長たちの誰かが粛正する。

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