新撰組のヒミツ 壱
悪人さながらに笑う土方は、まるで書物を読み上げるように滔々と筋書きを語る。暗殺はすでに成功するものだと疑っていないようだった。


「あの人の悪運もここまでだ。確かに世話になったが、あの人のせいで俺たちは京の鼻つまみ者の“壬生狼”なんだからな」


「……ええ。ご健闘をお祈りしています」


忌々しげに語る土方に、山崎はただ頷いてそう言う。もうそこには『逃げる』などと言った山崎はいなかった。


むしろ、先のそれは、幻聴ではないかと疑い始めたところだ。


“ずっと一緒にいる”


それは一体どういう意味で言ったのか。仕事熱心の山崎のことだから、何か意味があったのかもしれない。


そんなことを考えていたら、山崎の方を向いていた土方が光に視線を送ってきた。


いや、正確に言えば、光が大切そうに腕に抱えている浅葱の隊服に、だが。


「……井岡。その隊服はどうした」


「え……ああ。これですか」


探るような土方の視線に、光は気まずさを感じる。今し方、暗殺の話題になっていた人物からもらったと言えば、きっと土方は不快に思うのではないか。


言いよどんだ光に「何だ、言ってみろ」と言う土方。助けを求めて山崎を見ると、彼は唇を「大丈夫」と言うように動かした。


「……これは、芹沢さんからです」


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