新撰組のヒミツ 壱
山崎と光は頭を下げて、「じゃあな、頼んだ」と言って去っていく土方を見送る。二人はお互いに顔を見合わせると、何とも言えない表情をした。


「死ぬべくして死ぬ――か」


何も言わない光の顔を見ながら、山崎は苦々しく呟いて光の肩に手を置く。


芹沢や梅といつ知り合ったかなど聞かず、ただそうぼやくように言って言葉を止めた。


「あかん、また要らんこと言うてもうた。まあ、俺たち監察方は監察方らしゅう、やらなあかんことせな……」


一つ軽い息を吐くと、光は「そうだね」と小さく微笑んで浅葱色の羽織を無意識の内にぎゅっと抱き締めていたのだ。


その羽織には、芹沢と梅の温もりが感じられるような気がして、光はこみ上げてきた感傷を振り切った。


――私は知っているからまだいいんだ。


だけど、知らない人はどうなる? 大切な仲間が死んだとき、急に死を知ることは私よりも辛いはず……。


ここにいる皆は、今や見ず知らずの他人では無くなった。そう、少し気恥ずかしいが、しっくりくるのが“仲間”である。


その仲間を騙しているのが光だ。


もし真実が知れたら“何故みて見ぬ振りをした”“仲間を見殺しにしたのか”と軽蔑されるかもしれない。


「……本当に側にいてね。約束」

「当たり前やろ。この寂しがり屋が」


冗談めかして言う山崎に「烝、ありがとう」と光は綺麗で優しげな笑顔を浮かべる。


自分だけに向けられた笑顔に、山崎がぐらっと来たのも無理はない。
< 295 / 341 >

この作品をシェア

pagetop