新撰組のヒミツ 壱
風呂から上がった山崎が、自室までの廊下を歩いていた時。その部屋の前には、光が縁側に足を投げ出して座っているのが見えた。


「…………起きとったんか」

「うん。さっき目が覚めて」


庭を眺め、足をぶらぶらとさせている光は、悲しそうな顔や無表情ではなく、思わず見入ってしまうほどの柔らかい微笑みを浮かべていた。


「烝が運んでくれたんだよね。
……重かった?」


「……そんなん言うくらいやったら、まずは酔うたらあかんやろ。それとも自棄酒か?」


「うん。……いや、どうなんだろう」


月を見上げて首を傾げる光を儚げに感じ、山崎は思わず開きかけた口を閉じてしまう。笑っているのに、やはり悲しげな顔だ。


月を空気越しに撫でるように、光はそっと指を動かして「人工衛星が無い月……」と、無機的な口調で呟く。


「じんこうえいせい?」

「月の周りを回るからくりのこと、かな」

「……。それ、ほんまに?」


想像してみて少し笑えてしまった。月の周りを回るということは、そのからくりは、まさか飛んでいるのだろうか。


――彼女は未来人。


本来なら生きる次元が違う人間だ。こんなに近い距離だというのに、何もかもがお互いを隔てている感覚に囚われる。


無風流なことを言って月を見る彼女は、奇妙なことに風流があった。檻から手を伸ばす吉原の女郎のように、色のある風流が。


ちぐはぐな彼女に戸惑う。


お互いの呼吸がいつもより浅い気がした。恐らくそれは気のせいではなく、身体のあちこちに緊張が渦巻いている。


「あのさ、」
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