新撰組のヒミツ 壱
「芹沢さんはそれを気付かせてくれた。あの人に誓ったんだ。恩人だけど……私はここの一員だから助けない。
――これから先、守るために。


私は間違ってるかな?」


真っ直ぐな目。切羽詰まった以前の瞳からは打って変わり、今ではその瞳に余裕さえ感じられる。


彼女は強いのだ。自分の大切なものしか守ろうと思わない山崎烝とはまるで違う。


何かを護ると決めた者だけが放つ、何物にも屈しない強さが彼女の目には宿っていた。


挑戦的な目に笑みを返すと、山崎は光の頭を軽くペシッと叩く。
「泣き虫治さんと格好付かれへんわ」


「……うるさい」


むっとしたように光は顔を背けた。そして山崎の無味乾燥した笑い声が、一層更けていく夜の中に消える。


やはり、この夜に芹沢派が粛清されてしまう事実は、歴史が大きく隔たるものであることを再確認させることになる。


やがて、廊下からは声も消え去り、妙に不穏な雰囲気に包まれる屯所は、京の民が囁くような“壬生狼の巣窟”に相違ない。










この幕末に正義の尺度など無い。


戦国から――太古から勝者には義があるとされた。生き残れば正義、死すれば即ち悪。


暗殺、粛清、切腹、裏切り、手引き……。


自分を尺度として、ただ己が正しいと思う道にひたすら突き進むだけが、自らのとりうる最善の選択である。


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