新撰組のヒミツ 壱
それと同時に、沖田が弾かれたように中に入っていった。土方も刀を抜きながら、芹沢が寝ているであろう布団の脇に走る。


しかしながら――……。


土方と沖田は絶句した。
一時、暗殺をしにきたということを忘れてしまっている自分に気付く。


泥酔していたはずの夜叉は、


「何者だ、貴様ら」


鋭い眼光をたたえ、


「儂を芹沢鴨と知ってのことか?」


土方と沖田を射抜いていた。


「…………っ!」


覆面の中から芹沢を見た土方は、背筋に冷たいものが走る。普段、鬼の副長と呼ばれる土方でさえ、筆頭局長から睨みつけられる恐怖は底知れない。


悠然と自然体で立っている芹沢鴨。いつもの鉄扇は持っておらず、鞘に納めたままの刀を左手に持っていた。


その眼光は身震いがする程である。


――まるで岩みてえだ。
そう、芹沢は頑として動かない大岩のよう。


「……顔を隠す必要は無いだろう?……」


刀をゆっくりと引き抜いた芹沢は、唇に凄惨で歪んだ笑みを浮かべた。


「表立って儂を殺せぬのか?
――暗殺がそれほどに後ろめたいか?
いや、自らの保身のためか」



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