新撰組のヒミツ 壱
口から血を吐き出して荒い呼吸を繰り返す梅は、屈み込んできた芹沢の頬にそっと手を当てると、掠れた声を絞り出す。


「……残さ、な……で」


――残さないで。


ただ独り、残して逝かないで下さい。


息も絶え絶えな様子で何度も呟く梅。


血の気がひいた白雪のような彼女の手。それをそっと包み込み、芹沢は「……ああ」と、感情を押し殺したように言った。


芹沢は、既に取り乱してはいない。瀕死の人間を目の前にしているというのに、見たことのない、優しい目を細めている。



咲く梅の

かれ行く様を

あい見れば

永らふことをも

あだに思わん



美しく咲く梅の命が枯れ、離(か)れ行く様を見てしまえば、生き長らえることさえも、無駄に思ってしまうだろう




血にまみれた凄惨な場所には、まるで場違いな短歌。いつも威圧感がある低い声は、今となっては僅かに震えていた。


芹沢の腕に支えられて、その嘆きの詠(うた)を聞いた梅は、血が引いた顔に眩しい程の満面の笑みを浮かべた。


艶やかなどではない、無邪気な表情。


「……おぉ、きに」




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