新撰組のヒミツ 壱
床に倒れた芹沢の横顔に、小さく浮かべた微笑みが見えたような気がした。


苦しみもなく、ただ穏やかに凪ぐ波のようだった。愛する者、愛し子を見るように、夢を見ているのかもしれない。


――そんなことを思って、自らの仕業による罪悪感から逃れるのだ、俺は。


「終わったな……」


部屋の入り口から聞こえてきた低い声。重ね倒れている芹沢と梅に見入っていた土方と沖田は、思わずハッとして振り返る。


そこには腕組みをした原田が壁に寄りかかっていた。その後ろでは、表情の無い山南が中庭の方をぼんやりと見つめている。


「そっちは殺ったんだろうな」
と、土方は抑えた声で確認した。


「……平間は逃がしちまった」


「彼は酔っていませんでしたから」


平坦な口調で言葉を紡ぐ山南。だが、気のせいだろうか。土方の目には、彼が僅かに安堵しているようにも見える。




――甘い。甘ったれんじゃねえ。




敵に情を抱いている山南も、そして内心では“良かった”という思いを欠片でも抱いている自分も……甘すぎる。


「ひ……じゃねえ。なあ、帰ろうぜ」


土方さん、と言いかけた原田に、他の三人が顔を見合わたせた。こんなに声を出しておいて今更だがな、と苦笑する。





息苦しかった雰囲気が一気に無残したのを肌で感じ、芹沢を襲った“長州の浪士”は去っていった。


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