新撰組のヒミツ 壱
しばらく素振りを繰り返していると、汗が滲み出てくる。手に握力が無くなるくらいまで振り続けると、腕が棒になったようだった。


(……手が痛い……)


集中が乱れてきたころ、休憩が入った。


その瞬間に膝裏から力が抜け、床にへたり込んで息を荒げる。いくら男と偽ったとしても、体力的にはやはり女なのだ。


(陸上部だったのにな……まあ、短距離専門だから凄い体力があるわけじゃないし……)


鍛えないといけないな……と息が整わないまま、そんなことを考えていると、目の前には準備されていたように手拭いが現れた。


「……? ああ……永倉さんですか」


「おう。まあ、大丈夫か?」


心配そうに顔を覗き込んでくる永倉に、光は「ははっ……」と、乾いた笑いを浮かべ、床に仰向けになった。


「私……体力は、そんなに無いんです……。情けない、ことですが……」


「いや、そんなことはない。実戦で無駄な動きをすれば、無尽蔵の体力も宝の持ち腐れだよ。君はそのままでもいい」


――何を考えたか知らないが、自己完結したものをわざわざ“壊す”必要はないだろう?と、彼は難しい言葉を落とす。


「完結なんて、してないですよ……」


汗を拭いていると息が整ってくる。未だに倦怠感はあるが、先程よりは大分良くなった。ゆっくりと立ち上がると、永倉が悪戯っぽい笑みを浮かべていた。


「井岡君、俺と試合するか?」


「いえ、監察方の仕事もありますので。それに監察頭から程々にと言われております」


間者の動向を探らなければならない。斎藤と原田に伝えるのは、何も言われていないため、山崎がどうにかするのだろう。


それに、と言葉を続けた。


「永倉さんには……竹刀一本、剣道では到底勝てそうにありません。私の刀は……侍にとっては邪道ですから」


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