新撰組のヒミツ 壱
沖田のときもそうである。剣道では勝てないと感じた光は、忍独特の足運びで目に留まらない速さで勝負をしていた。


もちろん、光は自分の刀に誇りを持っている。師から受け継いだ流派は、とても合理的で優れていると自負している。


――だからこそ、素振りに重きを置いた練習を行う、剣の道をここまで重んずる永倉とは戦えない。そう思ったのだ。


光は、間者の件で太刀を使うつもりであるので、どうしても誰かの稽古に行かざるをえない。良い肩慣らしになった、と満足気味に笑った。


「では、また機会があれば」


「おう、いつでも来てくれ」


何か言いたげな永倉だったが、光が挨拶をすれば、それを笑顔の下に押し隠して、隊士共々、見送ってくれた。









監察方がさり気なく間者に張り付いていた間、彼らに大した動きはなく、ついに決行の一日前の九月二十五日となった。


「――松平容保様により、我らは“新撰組”という名を頂いた! 本日、我ら壬生浪士組は、拝命した新撰組と改名する!」


夕餉のために広間にいた近藤が、そのような宣言をした瞬間、隊士らが夜にもかかわらず、雄叫びを上げるように喚声を上げた。


それは組長、監察方、平隊士も同じである。熱血漢である原田は元より、普段は冷静な斎藤、山崎でさえ破顔し、喜び合う。


未来の知識で知っていた光も、仲間の喜びようを見ていたら、思わず口元に柔らかい笑みが浮かぶのだった。


「新撰組……!」


「俺らは認められたのか」


あちらこちらで喜びに打ち震える声が聞こえる中、光は微笑みながら妙なことを考え込んでいた。


(何か、腹がむずむずする……くすぐったいような、にやけるような……。ああ、遠足の前の晩のわくわくした感じ……?)


自分が高揚していることに気付かず、せり上がってくるその妙な感覚に、光はただ唇や表情が緩むのだった。



< 334 / 341 >

この作品をシェア

pagetop