新撰組のヒミツ 壱
身に覚えの無いことを言われても、楠はただ声を上げることもできず、撃剣師範から命を狙われる恐怖から逃げようとする。




「貴様っ……背を向けて逃げるとは……長州の輩は武士としての矜持も持ち合わせてはいないようだな……!」




あからさまな挑発に、一瞬だけ楠が顔を後ろに向けた。長州全てを馬鹿にされることは、やはり耐え難いことなのか。




だが、光は最早弁明する時を与えない。
全てはもう動いていたのだから――。




右足を大きく踏み込むと、身体をぐっと下げて、左手を鞘に掛ける。柄を強く握ると、楠の左脇腹から右肩目掛けて、一線を振り上げた。



鮮血が舞う。



光の得意な技である、神速とも言える居合いによって、楠は小さな叫び声を漏らすと、地に伏せて直ぐに息絶えた。




――ああ、終わった……。




「裏切り者……俺たちを騙して……!」

「この野郎……芹沢先生の仇が!」


肉塊を冷たい視線で見下ろすと、周りの隊士たちは仲間を闇討ちした間者に対して、怒りの嵐が吹き荒れることとなる。


(楠小十郎……私たちは謝らない。


善人面を引き下げて仲間ごっこをしていたのはお前だ。お前が新撰組を利用するなら、逆に利用されても文句は無いだろ……?)


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