新撰組のヒミツ 壱


血を洗い流した光が自分の部屋に戻ると、掛け布団に抱きついて熟睡している山崎がいた。


「烝、烝。おい、起きろ!」


「……んー……うぅ……」


唸りながら反対側に寝返りを打つ山崎。青年である彼が、寝ているときには、まるであどけない少年の寝顔をしている。


山崎は、信頼出来る人物でないと一緒に眠ることが出来ないらしい。昔はともかく、今は光に警戒心が無いのはいいのだが、気を許し過ぎて逆に寝起きが悪い。


「……なんや……光、か……」


掠れた声を出す山崎は、片目をうっすらと開け、眉間の皺を寄せる。


暑さのためか、彼の胸元の合わせは大きく開いていた。細くて引き締まった痩躯、程良くついた健康的な筋肉に思わず目を背けた。


ふっと漏れる息の忍び笑いに、衣擦れの音。山崎はいつの間にか布団から起き上がり、服装を整えていた。


流石に行動が早い。


「……どないしたん。ああ……今朝は例の任務やったな。見たとこ、任務完了か」


「……うん、今日は自由だって。多分、私たちと吉村さんと島田さんは非番」


笑うなよ、と内心で悪態を吐いていると、山崎はそれさえ見透かしたように、小さく噴き出してしまう。


横目でじろりと睨むと、ようやく山崎は真面目な表情になった。


立ち上がった山崎は、たんすを探って一着の黒い着物を取り出し、「お前も俺も、これやったら真っ黒やな」と苦笑いを浮かべてみせる。


「もう――新撰組は近藤局長のモンや。正確には土方副長が掌握した言うてもええ。俺ら隊士も身の振り方っちゅうのを考えな」


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