新撰組のヒミツ 壱
あっけらかんと言い放つ沖田に、土方は呆れたような深いため息を吐いた。


「何でそれを先に言わないんだよ……てめえ、まさか逃げるつもりじゃねえだろうな……?」


「いいえ……出かける用事はありません」


今や、状況が変わったのですよ……、と内心で呟く。事情とやらを説明することが面倒だから、嘘の用事を作り上げた――などと言うことはできない。


しれっとして嘘を吐くと、土方は目を細めて言う。「そうか。ならいい」


「――沖田さん、道案内をよろしくお願いしますね。では土方副長。失礼します」


「……俺はまだてめえの副長じゃねえよ」


言外に光が壬生浪士組の隊士だとは認めていないということを含ませている土方。不機嫌な口調で言葉を紡ぐ。


壬生浪士組副長の一人、土方歳三は自他ともに認める厳しさだと聞いている。


やはりそう簡単には認めてくれないか――と思うが、想定内だったため落胆する事はなかった。

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