新撰組のヒミツ 壱
この気配と雰囲気の男――いつだったか、会ったことがあるような気がする。懐かしさを感じたが、すぐに首を振った。


この男は何のために――?と胸の内に自問すれば、『何を分かり切ったこと』をという答えが返ってくる。


「あなたは監察方……ですね。土方副長のご命令なのでしょう?」


「副長? ちゃうで」


男の声は嘘を吐いている様子がなく、心底不思議そうな声音である。だが、肝心の土方の表情には、隠そうという意志が無いようである。


――この監察、食えない男だ。余程、嘘と演技が上手いと見える。先程の動きといい、速さに自信のある光以上に速い。


素直に、恐れを抱いた。


「…………私の周りを嗅ぎ回るのは、一向に構いませんよ。ですが……私の事なんて誰にも解らないでしょう。無論、私自身にも――」


自嘲気味に笑う。自分を調べても何も無い。光自身、自分が何者なのかをはっきりと言うことができないのだ。


その監察は、見えている目を鋭くした。
「何……、言うとるんや」


「ですから、どうか私が何者なのか――……いいえ、ただの独り言です」
光はそう言ってそっと目を伏せる。
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