新撰組のヒミツ 壱
「ここや。狭いのは堪忍な?」


そう言って案内されたのは、確かに少し狭いが、綺麗に片付けられた部屋だった。


しかしながら、狭いとは言っても二人が生活をするには少し狭いだけで、一人用には十分すぎる大きさである。


「俺のは大きいかもしれへんけど、身体の線が隠れるからええやろ」と、山崎が取り出したのは、黒い忍服と覆面用の布に額当てであった。


「…………気ィ付けてな」


受け取る間際に低い声で囁かれ、一瞬だけ顔に熱が集まった。心臓の鼓動が早くなったことに違和感を覚える。


一瞬だけ衣服に視線を捕られた隙に、近くにいたはずの山崎は、既に部屋の中から姿を消していた。


恐らく、気を使ってくれたのだろう。


深呼吸をして変に高ぶった気を鎮めると、遠慮なく袴を脱ぎ捨てて黒いそれを身に纏っていく。


元々、忍が着るものは動きを阻害しない、身体の線が見えるものである。光が今着ている山崎から受け取ったものは、身体の線が見えない限界であった。


(気を付けないと、一さんは勘が鋭そうだ……)


< 86 / 341 >

この作品をシェア

pagetop