新撰組のヒミツ 壱
凍てつくように冷たい眼をした光は、怒りや苛立ちの余り、口元に歪んだ笑みを浮かべて片頬で笑った。


「侍が命乞いとは、みっともない……。その手にあるものは飾りですか?」


「ッ……頼む……殺さないでくれ……!」


なんとみっともない姿か。


藩を捨てて、自らの意志に従った脱藩浪士も、命の危険に合うと自尊心も消えて無くなるのか。


(こんな奴らに……先生は……!)


水面下で静かに怒る光には、もはや理性などはなく、殺意しか持ち合わせていなかった。


懐からクナイを取り出し、ゆっくりと緩慢な動きで浪士に振り下ろす。


ドンッ……という鈍い音をして、クナイは浪士の腹に深く吸い込まれた。


「ッぁ!……」


腹を刺された浪士は苦悶の声を上げる。同じくゆっくりとした動きで脇差しを抜くと、斬った浪士の傷口から大量の鮮血が吹き出した。


致命傷ではないが、放っておけばいずれ出血多量で死に至るだろう。変わりに長く苦しむだけだ。


光の身体に飛び散った返り血の量が、それを証明している。


それが命乞いをした侍の末路。心が痛むこともなければ、詫びるつもりもない。
< 90 / 341 >

この作品をシェア

pagetop