新撰組のヒミツ 壱
頬と漆黒の衣服に付いた紅い色。血は目立たないものの、光は赤黒く濡れた服と血独特の金臭い臭いに不快感を感じる。


無表情で脇差しに付いた血を懐紙で拭い、血で使い物にならなくなるほど汚れたそれを浪士の身体の上へ放った。


「――さようなら」


腹を押さえて呻いている浪士に、光はそう冷たく言い捨てると踵を返した。


「先生……」と、ポツリとした呟きが漏れる。


――貴方を殺した倒幕派の浪士が、私は心底憎い。幾人も殺した浪士のなかに、貴方を殺した浪士はいたのだろうか……。


光は、ひどく切ない顔をした。敬愛していた先生の面影が脳裏を過ぎったのだ。


誰よりも強く……。
誰よりも美しく……。
誰よりも気高く……。


誰よりも……、



「――……貴方は優しい鬼だ」



風はさらう。

許されぬ言葉をかき消すがごとく。

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