魔界動乱期
「だからさ、ケルゲリオ。それはアバルの流したデマだよ」

「アバル様は善王だ!そんなことするはずがねえ!」

「国の魔力がアバルを変えたのかもな」

ジードとケルゲリオの会話にラウドが入り込んだ。

「なあ、ケルゲリオ」

「は、はい!」

こわばりきっているケルゲリオの顔は、恐怖というよりも、憧れの存在を前にした緊張感のように見える。

「アバルは自身が高名な学者であり、正義の志を持つ者だ、と昔ギルシャル様に聞いたことがある。だがな、国の魔力はそんな魔族をも変えてしまうんだ」

「親父、国の魔力ってなんだい?」

「国が大きくなっていくに連れて、自分の回りを覆う欲深い者達、‘俗’が増える。俗は自分の欲に繋がり、欲は更なる渇きを生む。王たる魔族は全ての俗を一身に背負う。自分だけなら膨らむはずのなかった欲望に皆負けてしまうんだよ。これが国の魔力さ」

「アバル様はそんなはず……、だ、だが、ラウドさんを目の前で見ているとはっきりわかる。底の見えない深み、とてつもない温かみ……。欲望のかけらも感じられない」
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