魔界動乱期
「は、はは……、やっぱり、今のあいつはただの魔族だ!しかも何だかもうヘロヘロじゃねえか!」

ガイラがとどめの一撃をジードに向けて放つ。
しかしその雷撃は、ジードの前でブシュウ、と音を立てて消え去った。

「何!?」

ジードは倒れたままだ。
今のジードには、真空の防御を作り出す余力はない。

ガイラがやや警戒して動きを止めたとき、突如激しい冷気が辺りを覆った。
氷の魔法ではない。
それは純粋な魔力。
身も凍り付く程の、膨大な魔力である。

【さきほどの雷撃はヌシの仕業か……】

腰の辺りに太い尾をなびかせ、その魔族が姿を現した。

「て、てめえは!あの雷撃を受けて消し飛んだんじゃ……」

【野生の本能というものは素晴らしい。雷獣よ、ヌシは恐怖を感じたのは初めてか?】

「恐怖だと!?ふざけるな!俺は無敵の雷獣だ!」

【恐怖を知らぬか。ひとつ良い事を教えてやろう】

森のもうひとつの伝説、魔界にその名を轟かす妖狐が妖しく笑う。
それは見るものを惑わし、恐怖すらも麻痺させる妖艶の笑み。

【恐怖に従えぬ者は、最初の恐怖で死ぬ事になる】

妖狐がゆっくりと歩を進める。
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