魔界動乱期
「ちょうどよかったぜ妖狐よ。貴様を一目拝みたいと思ってたんだ。その被さった髪の毛をどけて素顔を見せろよ」

【ふっ、愚かな……】

「じゃあ力ずくだ!」

ピシャアーン、と激しい稲光が妖狐へと落とされた。
しかしそれは妖狐の頭上で消滅する。

「あ?」

【見ていなかったか?】

瞬間、妖狐から禍々しい魔力が放たれた。その雰囲気はさきほどのジードによく似ていたが、魔力の大きさはジードを優に上回る。
そして再び、えもいわれぬ恐怖がガイラの頭を支配する。

「う、ああ……。おああ!!」

ガイラは恥も外聞も捨て、その場から逃げ去った。

「はあっ、はあっ、だいぶ離れたはずだ。光の速さの俺に追い付けるわけ……」

【どうした雷獣?逃げるのではなかったのか?】

どういうわけか、ガイラはその場を一歩も動いていなかった。

「ひっ!!な、なんで……!?」

恐怖にひきつるガイラの表情からは、既に戦意のかけらもない。

【無敵の雷獣か。古い言葉だ……】

妖狐は空の能力で、ガイラの逃げる空間を削り取っていた。
だいぶ離れたと思ったガイラは、結果的にそこを移動出来ていなかったのだ。

そした妖狐が掌を開きガイラに向け、ゆっくりと握り込む。

「や、やめろ!!やめ……」

ガイラは空気に押し潰されるように体を縮め、やがてその場から消滅した。
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