魔界動乱期
妖狐が‘ラウドに殺される為に生きている’と言った言葉の裏にもそれを感じる事ができる。

妖狐は興味の持った者の名前しか覚えない。それは強き者。
妖狐を殺せる魔族など、果たしてこの魔界に何魔いるか。
そんな魔族がいたとしたら、たとえ死しても、妖狐の魂にはその名前と記憶が刻み込まれる。

生きる価値がわからなくなった妖狐は、ラウドに殺される事を心から熱望しているのだろう。
そしてラウドという魔族の存在を、永遠に魂に刻み込みたいと思ったに違いない。

ラウドから最愛の者を奪ったという妖狐には、そんな悲しい方法でしか、ラウドとの繋がりを持つ事は出来ないと考えたのだろう。

「妖狐さん、不器用すぎるよ。そんな感じじゃあ親父、これだけ想われてるって気付かないぜ?多分そっち系には鈍感だからさあ。それに案外臆病者なんだよなあ、親父は」

【ふっ、童が知った風な事を。だが、臆病者というのは的を得ているな……む……】

ジードの言葉で自然と笑みがこぼれた自分に違和感を感じつつも、それも悪くないと妖狐は思っていた。

【我の愛した相手がヌシのような魔族であったら、生きる意味を見出だせていたかもしれぬな……】

妖狐は今までの魔生において、初めてとも言える素直な気持ちを言葉にした。
それは真っ直ぐな心を伝えられない今の、そして今後の自分に向けて言った言葉かもしれない。
おそらくこれからも、ラウドの前では今までの‘妖狐’のままであることを自身わかっているのだ。
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