魔界動乱期
「勿体ないよ妖狐さん。こんなに綺麗で、こんなに優しいあんたの気持ちを振り払える魔族なんていないと思うけどな」

すると妖狐はジードに顔を近付け、しばらくジードの目を見つめた。

「え?え?な、なんだい?」

【それは……、ヌシもそのうちの一魔だと捉えても良いのか?】

「なな!よ、妖狐さん!いきなりそんな事を……」

【冗談に決まっておろう】

「……!こ、小悪魔だ!ちきしょう!」

ジードは妖狐に背を向けて叫んだ。

【なんだ、もう行くのか?】

「親父連れてくる」

【なっ!?】

「親父連れてきて、あんたらくっつける」

【じ、冗談はよせ!!】

そしてジードは、慌てふためく妖狐の方へクルッと振り返り、ニヤニヤと笑う。

「初めて妖狐さんの動揺した姿見られたぜ。ずっとそんな感じなら可愛い……はっ!?」

ゴゴゴゴ……と大気が震え、ビッとジードの髪結いが剥ぎ取られた。

【どうやら願いが叶うぞ、イーフリートよ……】

「ご、ごめんなさいーー!」

ジードは逃げるようにしてその場を後にした。

【あの童といると調子が狂う】

妖狐はジードの髪結いを見つめながら呟いた。

【そういえばこの衣服も、昔ラウドの家から勝手に持ってきたのだったな。……伸びた髪の毛が少し邪魔だと思っていたところだ】

その髪結いで自らの髪を束ね、妖狐はジードの飛び去る姿を見つめていた。

【ジード……】
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