魔界動乱期
妖狐はこの頃、ギルシャスに隣接するゼモル、スパニーボの森に住み着いていた。
数十年前、妖狐の体内で魔神の血肉が暴走を起こしたとき、それを静め命を救ったのがラウドだった。

そのときから妖狐の頭の片隅には、常にラウドが存在し続ける。
妖狐にはその感情が何なのか、まだわかっていなかった。

ラウドにはエレナという心に決めた女性がいたが、妖狐の存在も徐々に心に根付き始めていた。

「妖狐、最近私の衣服がなくなる事があるのだが……」

【知らんな】

「お前が今着ているのが私の服だろう!」

「な、なんであんたがラウドの服着るのよ!サイズ違うじゃない!」

そのとき、物凄い勢いでバルザベルクが入ってくる。

「妖狐さぁん!来てるなら言ってくださいよぉ!」

「バルザ、用があるんじゃなかったのか?」

「バカヤロウ!俺の優先順位は妖狐さんが一番なんだよ!」

【はて、この小僧は誰だったか……】

「妖狐さん、いい加減に名前覚えてくださいよ……」

底抜けに明るいバルザベルクは、皆のムードメーカーである。
そしていざ戦闘になると、これほど頼りになるものはいない。
ラウドはいつもバルザベルクに対してそう感じていたのだ。

そのとき対抗勢力のリマでは、ギルシャスを脅かす程の強力な魔族が台頭を現し始めていた。
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