魔界動乱期
妖狐がスパニーボの森に住み始めてからというもの、何魔もの魔族が妖狐に戦いを挑みにやってくる。
しかし妖狐は、その全てを難なく退けていた。
印象的な言葉で、妖かしの笑みで、絶大な魔力で、その‘惑わし’によって相手に恐怖心を植え付ける。
そして恐怖を増大させた魔族は妖狐の前から逃げ失せるのである。

【他愛もない……】

それは、相手を殺さないための妖狐の戦術であった。
冷酷非道と恐れられた妖狐だが、実はよほどの悪党でない限り殺す事はない。
それは妖狐のこだわりである。

しかしこのときの妖狐は、その悪党でさえも殺す事が出来ない精神状況にあった。

【ギルシャスがグレイドに上り詰めた‘メディオ戦争’から、もう四百年にもなるか……】

妖狐はその戦争のとき、旧友のギルシャスのため、誰にも知られずに相手の軍団長を討った。

‘お父さん!目を開けて!!……あなたが……あなたがいなければ、私達はこんな悲劇を味わう事がなかった!殺してやる……、あなたなんか!!’

そのとき妖狐に向かっていった幼い女の子に、運悪く流れ魔法が的中してしまった。

‘あなたが……いなけ…れば……’

それ以来このときに至るまで、妖狐は表舞台から姿を消していた。

【……ふっ、昔の話だ】

このとき約十魔の強大な魔力が、自分に向かってきている事を、妖狐は感じとる。

【リマから来た者達だな】
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