魔界動乱期
その魔族集団が、妖狐の前に降り立つ。

「我々の襲来がわかったろうに。逃げずにいるとは死を覚悟したか?」

【リマには敵戦力の主力を葬るために作られた‘影’という部隊がいるそうだな。我はギルシャス軍ではないが?】

「ふっ、そこまで知っているか。貴様はどうもギルシャスに仇なす者を弾く役目を担っているようだからな。生かしてはおけんのよ」

【ヌシら、恐怖というものを感じた事はあるか?】

「恐怖だと?ははは!我々に恐怖を感じさせる魔族など皆無!」

【そうか……、ひとつ良い事を教えてやろう】

下を向いたままの妖狐の魔力が膨らみ始める。
そしてそれは影達の予想を遥かに越え、とどまることなく上昇してゆく。

「こ、この魔力は……」

【恐怖を知らぬまま成熟した者は、最初の恐怖で死ぬ事になる】

妖狐の顔が妖しく微笑む。
そこに漂うのは冷気。
身の毛も凍りつく程の強大な魔力が、影達を心底冷やしめてゆく。

【悪党を生かす程甘くはないぞ】

「あ……うう……」

影達はその場を一歩も動けないでいた。
動いた者から殺される。
そんな恐怖が、彼らの心に渦巻いていたのだ。
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