魔界動乱期
そのときのラウドの姿は、バルザベルクが今まで見たことがないものだった。
握りしめたラウドの拳からは血が滴り落ち、怒りを必死に抑えながらも、ラウドの周りの空気は高い熱度に覆われていた。

ラウドは下を向いているため表情までは読み取れないが、今にも激しい怒りが爆発する寸前のように、バルザベルクには思えた。

ラウドにとって、エレナは燦々と輝く真昼の太陽。
妖狐は戦場において闇夜を照らす月。
どちらも欠けてはならない存在だが、時に月は、太陽を覆い隠す程大きな存在になる事がある。

ラウドにとって妖狐とはそういう存在なのだ。
今この瞬間だけは、ラウドの中で最も大切なのは妖狐だったかもしれない。

「妖狐、今ギルシャスの医務室に連れて行くからな！」

「あ、ああ、そうだな！」

その後、医務室でラウドとバルザベルクが妖狐を見守っていると、急ぎ足で誰かがドアを開けた。

「妖狐さん、大丈夫なの！？」

エレナである。
エレナは妖狐を嫌いではない。
度々恋路を邪魔されるが、それは意図的な行為ではない事がエレナにはわかっている。
また、妖狐の‘ぶっきらぼうな’優しい行動をよく目の当たりにしていたからでもある。
エレナにとって妖狐は、いつの間にか大切な友達の一魔になっていたのだ。
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表紙・目次

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